インタビュー

世界でも類を見ない馬の行進「チャグチャグ馬コ」。発祥の地・滝沢市で今でも続くその理由とは - 滝沢市地域おこし協力隊募集

滝沢市発祥の伝統行事「チャグチャグ馬コ」。働く馬の活路を見出す、PRコーディネーターを募集しています!

滝沢市は岩手県の内陸部に位置する人口約55,000人のまちです。2014年に、それまで“日本一人口の多い村”滝沢村から、滝沢市に市制移行しました。
隣接する県庁所在地・盛岡市のベッドタウンである同市には、盛岡市に通勤する住民が多く、生活圏はほぼ一体であることが特徴です。一方で、日中は若者が通学するまちでもあり、市内には2つの高校と3つの大学があります。そのひとつ、岩手県立大学の隣には産学官連携を目的とした、滝沢市IPU(Iwate Prefectural University)イノベーションセンターを構え、IT系の企業誘致や人材育成に積極的です。

そんな滝沢市には、1978年に国の無形民俗文化財に選択された「チャグチャグ馬コ(うまっこ)」という伝統行事があり、そのPR企画を担う人材を地域おこし協力隊「チャグチャグ馬コPRコーディネーター」として募集しています。チャグチャグ馬コを管轄する滝沢市経済産業部観光物産課の高橋聡さん、チャグチャグ馬コ同好会滝沢支部長の菊地和夫さんに話を伺いました。

大切な馬の安全祈願がはじまりだった「チャグチャグ馬コ」

岩手山を背景に滝沢市を出発するチャグチャグ馬コの行進

岩手山を背景に滝沢市を出発するチャグチャグ馬コの行進

「チャグチャグ馬コ」とは、毎年6月の第二土曜日に行われる、滝沢市を中心とした地域の伝統行事です。約70頭の馬と引き手が列をなして神社をお参りするもので、世界的に見ても類がありません。馬を引いているのは、滝沢市、盛岡市、矢巾町で組織される「チャグチャグ馬コ同好会」の皆さんです。

農機具が今ほど発達していなかった頃は、「農耕馬」と呼ばれる馬の力を借りて田畑を耕すことが多く、人間が馬と一緒に暮らすのは一般的でした。馬小屋を併設した住居のことを、岩手県内では「南部曲り家」と呼んでおり、滝沢市内にも1軒残っています。このように共に暮らす大切な馬の安全を祈願し、慰労するため、滝沢市内にある馬の守り神・鬼越蒼前(おにこしそうぜん)神社などをお参りするようになったことが、チャグチャグ馬コのはじまりです。

「チャグチャグ」とは、お参りの際に馬がまとった装束の鈴の音がそう聞こえたことから。また、馬に「コ」がつくのは岩手の方言に由来します。岩手では女性のことを「姉っこ」、休憩のことを「お茶っこ」というように、「こ」をつける言い方があります。

チャグチャグ馬コ当日は複数の休憩ポイントで“馬コ”と触れ合える

チャグチャグ馬コ当日は複数の休憩ポイントで“馬コ”と触れ合える

盛岡市中心部を行進する様子

盛岡市中心部を行進する様子

この馬コたちのお参りが、盛岡八幡宮(盛岡市)まで延びたのは、昭和5年、秩父宮殿下が岩手県にお越しになったことがきっかけでした。殿下のために、馬場を備えた盛岡八幡宮まで馬コたちを行進させ、お披露目したのです。これ以来、チャグチャグ馬コは滝沢市から馬と引き手が片道約14キロを歩いて盛岡八幡宮まで行進するのが定着し、今では初夏の風物詩となりました。

馬と人、継続には両方とも欠かせない

菊地さんが世話する種牡馬。原則チャグチャグ馬コに牡馬は参加しない

菊地さんが世話する種牡馬。原則チャグチャグ馬コに牡馬は参加しない

初夏の風物詩になった「チャグチャグ馬コ」は現在、約70頭の馬が行進していますが、農耕馬としての役割がなくなった現在、馬は誰がどのように管理しているのか、また、チャグチャグ馬コ以外の出番はあるのでしょうか。

地域おこし協力隊募集に至る背景や、過去に行ってきた取り組みなど、あわせて話を聞きました。

滝沢市経済産業部観光物産課・高橋聡さん

滝沢市経済産業部観光物産課・高橋聡さん

高橋さん 「馬を飼うというのは農耕以外にも、馬産という目的がありました。仔馬が生まれたら競りに出して収入とするのですが、そもそも馬を飼う家庭が減っています。今、市内には11名の馬主さんがいて、33頭の馬がいます。馬主さんは80代の方が多く、後継者がいない。餌代もそれなりにかかりますし、通常の会社勤めだと馬の世話はなかなかできません。

馬主さんたちの年齢を考えると、この5年くらいが今まで通りチャグチャグ馬コを続けられるかどうかの正念場だと考えています。課題はひとつではなく複合的に存在しますが、まずはこの現状を含め、もっと多くの方に、チャグチャグ馬コを知ってほしい。そのPRの窓口になっていただく方を地域おこし協力隊として募集することにしました。」

実はチャグチャグ馬コに参加している約70頭のうち、半数以上がこの日のために借りてくる馬なのだとか。行進は1日だけですが、そこには聞いてみないと分からない苦労がありました。

菊地さん 「一人で何頭も飼っている人から馬を借りられるのはありがたいことですが、今度は馬の引き手の問題があります。馬も慣れない土地に来ている。引き手との相性もありますから、本当は、その馬に慣れている人が引き手になったほうが安心です。
課題はいろいろとありますが、馬の頭数の話だけでなく、引き手となる人材のこともあわせて考えないと、チャグチャグ馬コはできないんです。」

チャグチャグ馬コ当日は複数の休憩ポイントで“馬コ”と触れ合える

チャグチャグ馬コに2頭参加させている馬主・菊地和夫さん

もともとは「働く馬」。馬コが活躍する場のコーディネートに継続のヒントあり?

高橋さん 「過去に行ってきたPRは県外だと、2012年に日本中央競馬会のイベントで東京に馬を連れて行きました。北海道、宮崎もありますね。最近だと仙台で開かれた獣医学会に装束を披露しに行ったこともあります。装束に関しては、地元の子供たちにも触れてもらって、馬主さんから話をしてもらうこともあります。馬主さんは個人・団体を問わずそれぞれが、馬の活躍する機会を絶やさないように協力してくれています。」

さらに話を伺うと、滝沢市以外から、馬の貸し出しや引き手と一緒に馬を連れてきてほしいといった依頼もあるようです。もともとは働く馬なので、チャグチャグ馬コの日以外にも活躍する場をコーディネートすることで、現代版「馬との暮らし」を維持する突破口が見えてくるかもしれません。

地元の小学生に装束を間近で見てもらう機会も提供している

地元の小学生に装束を間近で見てもらう機会も提供している

地元の中学生と馬コの交流

地元の中学生と馬コの交流

チャグチャグ馬コはここにしかない文化。今、途絶えさせるわけにはいかない

現状を踏まえ、チャグチャグ馬コを続けていくにはどのような一手を打つのがよいのか。一朝一夕には答えの出ない問題であり、PR担当としても難しい局面に立つことがあるかもしれません。そんな時に大事にしてほしいのは馬主とのコミュニケーションです。菊地さんに、もう少し話を聞いてみると、少しずつ思いが伝わってきました。

菊地さんの馬小屋で

菊地さんの馬小屋で

菊地さん 「私は69歳ですが、小さい頃から家には馬がいて、その暮らしが当たり前でした。今、馬小屋にいる3頭のうちの1頭(種馬)は、もともと管理していた方が体調を崩したことから私が管理することになったもの。チャグチャグ馬コがあるからこそ、馬主や関係者で協力しあって世話を続けています。

チャグチャグ馬コはここにしかない。ほかにあるというなら、ここまで思わないかもしれないが、世界にここだけなら、守っていきたい。代々続いた伝統をここで絶やしたくないね。」

お会いした日は雪が降るあいにくの天気でしたが、菊地さんの馬小屋を訪問しました。一番驚いたのは馬の大きさ。すらりとした競走馬と違い、重量感のある体つきに、がっしりとした太い脚が、以前は農耕馬として活躍していたということをはっきりと感じさせてくれました。

特に圧巻なのはがっしりした太い脚

特に圧巻なのはがっしりした太い脚

寒さに強い農耕馬は雪でも関係なく駆け回る

寒さに強い農耕馬は雪でも関係なく駆け回る

地域おこし協力隊に期待すること

今回募集している地域おこし協力隊は滝沢市に所属しますが、チャグチャグ馬コ同好会は滝沢市のほか、盛岡市と矢巾町にも支部があり、3市町にまたがっています。目的さえあれば活動範囲を広げてPR企画を提案、実行することが可能です。

最後に、高橋さんと菊地さんに、地域おこし協力隊として活動する方に期待することを伺いました。

高橋さん 「“コーディネーター”という仕事柄、交渉や調整能力は必要です。体力を考えると年齢的には若いほうがよいかもしれませんが、自分の両親か祖父母世代の馬主さんたちとコミュニケーションすることが多くなるでしょうから、物おじせずに話せる方が向いていると思います。でも馬主の皆さん、いい方が多いですから安心してください。」

菊池さん 「馬主たちの方言が通じないかもしれないけど、聞き取りの練習させてくれる人はいるから大丈夫(笑)安心して来てください。」

長年馬の世話をし、チャグチャグ馬コを支えてきた馬主の皆さんにはそれぞれ並々ならぬ思いがあるはずです。丁寧にお話を聞いていけば、受け入れてくれる土壌があると感じました。答えは現場にしかない。そんな気持ちでインタビューを終えました。

(岩手移住計画 藤野)